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-10年来の悲願となるクランプ(とめ金具)のPRI認定品ー

2010.6.15

QPL-85052からPRI-QPL-AS85052への軌跡
これは10年来の悲願である。SAEの担当者はそういって回答を寄越した。現在PRI(SAE規格の認定品策定機関)ではMILスペック認定品目表のQPL-85052をPRI-QPL-85052に切り替えるべく認定作業を行っている。このQPL-85052は航空機の機体に取り付けるループ・クランプ(ループ型とめ金具)の認定品一覧であるがこれにより従来のMIL仕様から民間仕様に準拠した認定品に変更することになる。PRIはDODとSAEの協力のもと初の民間クランプ認定品を策定しているが、そこにはDODとSAEによる「10年来の確執」も見え隠れして大変興味深い。 (DCメール 2010年6月15日 No.271)

オゾンや紫外線による亀裂が指摘されたM85052/1クランプ
DODは航空機の機体に取り付けるクランプ(留め金)の仕様書MIL-DTL-85052を近くキャンセルすることを回答してきた。またその代替としてSAE-AS85052を採用することも回答してきた。その結果現在の認定品目表QPL85052をキャンセルし、代わりに新しくPRI-QPL-AS85052の登用を計画している。なお移行計画(Supersession)は当初の予定(今月)より大幅に遅れている。
そこで今回のDCメールは調査を通じてDODとSAEから入手したMIL-DTL-85052をAS85052に代替しまた認定品もQPL-85052をキャンセルして新たにPRI-QPL-AS85052を策定する計画について紹介する。
SAEの説明によると航空機の機体に取り付けるループ型クランプM85052/1はオゾンや紫外線により使用されている緩衝材に欠陥(亀裂ばどがはいること)があることから、かねてより機体メーカが推奨する性能の高いフルオロ・シリコン緩衝材(Fuluoro-Silicon Cushion Material)を使用したクランプをAS5874として運用してきた経緯がある。このことはAS5874のRATIONALEに記載されており、わが国のユーザ間でも話題に上った。しかしながら未だにDODではM85052/1クランプの仕様書であるMIL-DTL-85052およびそのスペック・シート群をキャンセルしていない。そこで弊社ではこの一連の動向についてDODとSAEの双方に見解を質した。
それによると現在SAEではもはやAS5874のRATIONALEの記述されているM85052/1クランプをAS5874クランプに置き換えることはしないという。またAS5874のRATIONALEの記述を変更するとの考えも明らかにした。
また一方DODの見解は現在においてもMIL-DTL-85052とそのスペック・シート群はアクティブであり、またそのキャンセル日程については未確定であると回答してきた。しかしながらDODはMIL-DTL-85052はいずれキャンセルする予定であり、その際にAS85052をDOD採用(Adoption)規格として採用することを公表するとの回答がなされた。
DODからははっきりとSAE-AS5874を採用する計画は無いという回答を得たわけであるが、それなら何故SAEはAS5874を採用する動きをしたのか。事実SAEはDODの協力のもとPRI-QPL-AS85052の策定を行っているところである。MIL認定品を民間のSAE認定品に切り替えることはSAEにとって10年にもわたる悲願であるという。
そこでこれらの問題を履歴を追って紹介する。このように順番に考えていくとそこには1994年に施行されたDODのMILスペック改革による性向と弊害とも言うべき問題が見え隠れしてきて非常に興味深い。
1.AS85052がMIL-C-85052と同一番号で民間規格として登場したのは2001年の3月であった。そこには全ての内容はMIL-C-85052(当時はA版)と同じであることが詠われている。そのうえ認定品目表はDODの裁量によるものでSAEは一切関知しない旨が記載された。このようなMILスペックの移行計画は改革と称されて当時大流行したもので、この場合も民間に預けて時期がきたら代替させる予定であったことは事実であろう。
2.ところが2005年3月になりDODはMIL-DTL-85052BとしてDTL型のスペックに改版させたのである。このDTL型のスペックはPRF型と違って製造方法論にまで言及するするものである。MILスペックの整理統合を図るDODは結局従来からのMILスペック色を残した仕様にすることでこのクランプを重要視たものと受け取った。
3.一方SAEは2008年2月に独自にクランプ規格を制定しAS5874とした。その記述(Rationale)には従来からのM85052/1クランプ(MIL-C-85052A相当品)に重大な欠陥があり、それに代替するものとして急遽採用することを述べたのである。この提案はある航空機メーカによるものとされており、SAEは急遽そのメーカ規格(Company Standard)を採用したと述べている。この問題は飛行中におけるオゾンや紫外線などによりクランプの緩衝剤部分に亀裂が生じたことが指摘されていた。
4.しかしながらSAEはその5ヵ月後の2008年7月に今度はAS85052を改版してAS85052Aとした。またその内容を全面的に変更した。その最初の文言として(Rationale)、この新しいクランプ規格はSAEの最新材料スペックや規格を統合し改版したものであると述べている。これは明らかにAS5874をも含めた意味である。今回のSAEの回答からも今後はAS85052をもってクランプ規格とすることを示唆したものとして受け取っている。
5.現在PRIはDODとSAEの協力のもとで初めて民間によるクランプ認定品目表PRI-QPL-AS85052の完了を目指している。DODによれば現在管理しているMIL-DTL-85052とQPL-85052をいずれキャンセルして、その代わりにAS85052AとPRI-QPL-AS85052を採用することを回答してきている。
このようにSAEの10年来の悲願とはまさに2001年にDODから受理したMILスペックを10年もかけて、ようやく民間規格としてまた民間認定品として策定できるという意味であろう。しかしながら一方ではこの10年の間に遅々として進まぬ「ばら撒き」ともいえる代替品や代替規格のありかたやその間における紆余曲折により「10年来の確執」も共存していたかのごとく写る。米国政府における国防取得改革以降、幾多の代替民間認定品を世に送り出してきたPRIにとって、このわずか数インチの小さな留め金具に10年の思いをかけていることに今更ながら航空機への安全性や信頼性にかける熱い想いとして受け止めたい。
注1:SAE-PRI(Performance Review Institute)とは、SAEの附属機関としてMILスペックから代替されたASやAMSスペックの認定業務を行っている。PRIによるとメーカからの強い要望によりMIL-QPLをPRI-QPLに「創始」することで、これらのMIL-QPL認定業者であることの証明として情報を提供することになっているという。またPRIのQPG(品質製品グループ)で承認されると、そのメーカをPRI-QPLに掲載することになる。
注2:このようにMILスペックがASなどの民間規格に代替されるケースの場合DODは事前にMILスペックをInactive(新規に無効)にすることでユーザに周知するが、このケースのように官民のスペックがActive(有効)の場合、どちらを採用していいか判断に苦しむ場合も少なくない。弊社ではこのような場合DODや民間規格団体から直接現況や今後の計画を聞くことで対応している。
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